「終わりの時を悟るか。」ダニエル8章16~27節

第7章の2年後、エラム州のスサはバビロンの東方200キロで、その傍を流れるウライ川のほとりで城壁を見ながら幻を見たのです。この後、スサの総督はペルシャ王クロスに付き、バビロンはメド・ペルシャの連合軍に3年も包囲されて一夜にして滅びるのです。ダニエルは、暗愚なベルシャツァル王の下で官僚としてバビロン帝国が滅びるのを案じていました。 

幻では7章で現れた鷲の翼を持つ獅子はなく、雄羊が立っていました。長い角の方はペルシャで、短い角はメディアです。西(ギリシャ)、北(バビロン)、南(エジプト)を突き、「雄羊は思いのままに振る舞って高ぶっていた。」(4)

その雄羊であるメド・ペルシャ帝国を打ち倒すのが、際立った角であるアレキサンダー大王に率いられたギリシャである雄山羊です。古来よりマケドニヤ人は「ヤギ族」と呼ばれたそうで、その旗印は山羊です。

ヨセフスの『ユダヤ古代史』にアレキサンダーがエルサレムを攻めなかった話が出ています。アレキサンダーは夢で「あなたはメド・ペルシャに代わって世界を治めるべき者である。」と白髪の老人に語られて兵を挙げたのですが、国々を打ち破ってエルサレムに近づくと、百名ほどの人が旗を挙げて近づいてきます。先頭は大祭司ですが、夢で見た老人でした。彼は、アレキサンダーにダニエル書8章を見せてアレキサンダーのことが預言されていると伝えると、王はその場にひれ伏して神の助けを知ったのでした。イザヤの預言でペルシャ王クロスが神殿再建命令を出して支援し、ダニエルの預言でエルサレムが滅ぼされることを免れたのです。

前323年にアレキサンダー大王が死ぬと後継者争いが続き、301年に4つの国に分割されます。9節の「もう一本の角」とは、セレウコス朝シリアのアンチオコス4世・エピファーネスであり、エジプトをも破ったけれども、ユダヤの反乱(マカバイ戦争BC167~160)に激怒して、13節にあるように神殿を汚したのでした。

旧約聖書外典のマカバイ書には、「聖所での焼き尽くす献げ物、いけにえ、ぶどう酒の献げ物を中止し、安息日や祝祭日を犯し、聖所と聖なる人々を汚し、異教の祭壇、神域、像を造り、豚や不浄な動物をいけにえとして献げ、息子たちは無割礼のままにしておき、あらゆる不浄で身を汚し・・・。王のこの命令に従わない者は死刑に処せられることになった。」(1・45-50)とあります。

「彼は、あきれ果てるような破壊を行い、事をなして成功し、有力者たちと聖徒の民を滅ぼす。彼は悪巧みによって欺きをその手で成功させ、心は高ぶり、不意に多くの人を滅ぼし、君の君に向かって立ち上がる。」(ダニエル8・24.25)なのです。それは「イスラエルの多くの者たちが、進んで王の宗教を受け入れ、偶像にいけにえを献げ、安息日を汚した。」(マカバイ1・43)とあるように、「その角は真理を地に投げ捨て、事を行って成功した。」(ダニエル8・12)の実現なのでした。

つまり、預言することで信者に注意喚起したのですが、実際には多くの人々が命を惜しみ、権力に迎合して信仰を破棄したのでした。「その時、人々は、あなたがたを苦しい目に会わせ、殺します。また、わたしの名のために、あなたがたはすべての国の人々に憎まれます。また、その時は、人々が大勢つまずき、互いに裏切り、憎み合います。また、にせ預言者が多く起こって、多くの人々を惑わします。」(マタイ24・9-11)ということが終わりの時のイエス様ご自身の預言です。

ダニエルは、この預言を聴いた後、「幾日かの間、病気になったままでいた。・・・私はこの幻のことで、驚きすくんでいた。それを悟れなかったのである。」27)とあるように、終末預言というものは、驚き呆れ、とても平静ではいられない怖さがあります。

「終わりの日に、あざける者どもがやって来てあざけり、自分たちの欲望に従って生活し、次のように言うでしょう。『キリストの来臨の約束はどこにあるのか。父祖たちが眠った時からこのかた、何事も創造の初めからのままではないか。』」(Ⅱペテ3・3-4)。

私には、耳に心地よいことだけを教え、試練に耐えることを身に着けるように指導しない教会が多いことに危惧を覚えます。「主の日は、盗人のようにやって来ます。その日には、天は大きな響きをたてて消えうせ、天の万象は焼けてくずれ去り、地と地のいろいろなわざは焼き尽くされます。このように、これらのものはみな、くずれ落ちるものだとすれば、あなたがたは、どれほど聖い生き方をする敬虔な人でなければならないことでしょう。」(Ⅱペテロ3・10-11)

父親不在の家庭で、厳しく躾けることができないようになり、信者のご機嫌を取ることに苦心する牧師では、終末の強い信仰を持てないように考えています。それが危惧ではないと聖書は語っています。

ダニエル8章16~27節

  • 8:16 私は、ウライ川の中ほどから、「ガブリエルよ。この人に、その幻を悟らせよ」と呼びかけて言っている人の声を聞いた。
  • 8:17 彼は私の立っている所に来た。彼が来たとき、私は恐れて、ひれ伏した。すると彼は私に言った。「悟れ。人の子よ。その幻は、終わりの時のことである。」
  • 8:18 彼が私に語りかけたとき、私は意識を失って、地に倒れた。しかし、彼は私に手をかけて、その場に立ち上がらせ、
  • 8:19 そして言った。「見よ。私は、終わりの憤りの時に起こることを、あなたに知らせる。それは、終わりの定めの時にかかわるからだ。
  • 8:20 あなたが見た雄羊の持つあの二本の角は、メディヤとペルシヤの王である。
  • 8:21 毛深い雄やぎはギリシヤの王であって、その目と目の間にある大きな角は、その第一の王である。
  • 8:22 その角が折れて、代わりに四本の角が生えたが、それは、その国から四つの国が起こることである。しかし、第一の王のような勢力はない。
  • 8:23 彼らの治世の終わりに、彼らのそむきが窮まるとき、横柄で狡猾なひとりの王が立つ。
  • 8:24 彼の力は強くなるが、彼自身の力によるのではない。彼は、あきれ果てるような破壊を行い、事をなして成功し、有力者たちと聖徒の民を滅ぼす。
  • 8:25 彼は悪巧みによって欺きをその手で成功させ、心は高ぶり、不意に多くの人を滅ぼし、君の君に向かって立ち上がる。しかし、人手によらずに、彼は砕かれる。
  • 8:26 先に告げられた夕と朝の幻、それは真実である。しかし、あなたはこの幻を秘めておけ。これはまだ、多くの日の後のことだから。」
  • 8:27 私、ダニエルは、幾日かの間、病気になったままでいた。その後、起きて王の事務をとった。しかし、私はこの幻のことで、驚きすくんでいた。それを悟れなかったのである。