「身を汚すまいと心に定めた。」ダニエル1章11~21節

バビロンの王宮で食べる肉は、異教の神に捧げられた肉であり、ダニエルはそれによって「身を汚すまいと心に定めた。」(8)のです。ローマ14章で「それ自体で汚れているものは何一つありません。ただ、何かが汚れていると考える人には、それは汚れたものなのです。」(14)とあるけれど、ダニエルは食事について無頓着であると、次第に堕落して信仰がなくなり、権力に迎合してしまうと恐れたでしょう。むろん、律法に命じられる食事は現代のイスラエルと同様に血抜きされたものであり、甲殻類なども禁じられていました。

ダニエルと他の3人は、15歳位だったようですが、「王族や貴族」の中から選ばれ、非常に優秀で健康であり、王に仕えるために選ばれた十代の青年でした。彼らには、バビロニア風の再教育を受ける為に名前が変えられ、衣食住全てに王に仕える奴隷として生きるべき訓練と教育がされるわけです。成人していたユダヤ人は、殺されるか肉体労働をされるかであって、王の教育を受けるのは洗脳されやすい子どもたちです。

王宮に住むということは、豪華で誘惑も多く、権力に逆らえば奴隷の身ですから、たちどころに殺されるという恐怖もあります。自分の意志を通すということは命がけになります。軍隊生活や権力の下に暮らすということはそういうものでしょう。アフガンを含めた統制国家に暮らす人々を私たちは、いつでも助ける用意をしておかなければなりません。幼いうちに子どもたちを洗脳して戦士として、或は奴隷として、思い通りに動かすために暴力的に訓練するということは今でも行われています。特に、女性たちは教育を受けることも許されず、意見を言うことも、一人で生きることもできません。

ネブカデネザルは、エホヤキム王を「青銅の足かせに繋ぎ、バビロンへ引いて行った。」(Ⅱ歴代誌36・6)。エホヤキムは、「25歳で王となり、十一年間王であり、彼は主の目に悪であることを行った。」(5)。当時は、まともな王はおらず、信仰深い大人たちは殆どいなかった状態です。ダニエルたちは、その大人たちが惨めにバビロンに引いて行かれるのを見ていたわけです。子供の頃の恐怖感や罪責感、そして敗北感などは、その子の生涯に大きな影響をもたらします。大人は、気が付かずに成人し、自分はこういう性格だと思い込みますが、実際には、子供の頃に意識づけられたものによって影響されてしまいます。

私の5人の子も全く性格が違い、怪我の後遺症、劣等感、競争心、性格などで葛藤してきたようです。ダニエルの凄さは、周囲の堕落した大人たちによって汚されなかったことです。子供たちの性格形成に大きく影響するのは、親であり、教師です。最近、学力重視で家庭教師を付けられて勉学に励んだ子供たちの成人後の弱さと性格の偏向が取り上げられてきています。教師に子供の成績の向上を求める親は、成人後の子供の姿に嘆くことになるでしょう。

ともかく、ダニエルは「私は、あなたがたの食べ物と飲み物を定めた王を恐れている。」(10)という宦官の長に対して怯むことなく、「どうか十日間、しもべたちを試してください。」(12)と掛け合うのです。結果が良かったので、「世話役は、彼らの食べるはずだったごちそうと、飲むはずだったぶどう酒とを取りやめて、彼らに野菜を与えることにした。」(16)。このことが上司に知られたら、彼は罰せられるでしょうが、彼は、この4人を信用したのです。たかが15歳の子供たちに、宦官の長も世話役も命を預けたのです。

「神が働かれたのだ。」と神任せのことを言う信仰者が多いのですが、「主はあまねく全地を見渡し、その心がご自分と全く一つになっている人々に御力をあらわしてくださるのです。」(Ⅱ歴代誌16・9)。ダニエル達が、この試練と挑戦に対して、命がけで神にあって生きることを選んだので、「神はこの四人の少年に、知識と、あらゆる文学を悟る力と知恵を与えられた。ダニエルは、すべての幻と夢とを解くことができた。」(17)のです。「王が彼らに尋ねてみると、知恵と悟りのあらゆる面で、彼らは国中のどんな呪法師、呪文師よりも十倍も優っているということがわかった。」

「ダニエルはクロス王の元年までそこにいた。」(21)ので、先々週お話ししたクロス王によるエルサレム神殿建設とユダヤ人帰国命令が出たのです。もし、ダニエルが、宦官の長や世話役に気兼ねし、命を惜しんで、自らの信仰的聖さを保とうとしなければ、ユダヤ民族は滅んでいたのです。

イスラム教徒が多いウズベキスタンのサマルカンドで預言者ダニエルの墓に行きました。本当の墓はイランのスーザにあるのですが、この偉大な預言者ダニエルの墓の周辺の土を山ほど掘って持ち帰り、同じくダニエルを祀ったということです。中東では、今でもダニエルは大変尊敬されているのです。

ダニエル1章11~21節

  • 1:11 そこで、ダニエルは、宦官の長がダニエル、ハナヌヤ、ミシャエル、アザルヤのために任命した世話役に言った。
  • 1:12 「どうか十日間、しもべたちをためしてください。私たちに野菜を与えて食べさせ、水を与えて飲ませてください。
  • 1:13 そのようにして、私たちの顔色と、王さまの食べるごちそうを食べている少年たちの顔色とを見比べて、あなたの見るところに従ってこのしもべたちを扱ってください。」
  • 1:14 世話役は彼らのこの申し出を聞き入れて、十日間、彼らをためしてみた。
  • 1:15 十日の終わりになると、彼らの顔色は、王の食べるごちそうを食べているどの少年よりも良く、からだも肥えていた。
  • 1:16 そこで世話役は、彼らの食べるはずだったごちそうと、飲むはずだったぶどう酒とを取りやめて、彼らに野菜を与えることにした。
  • 1:17 神はこの四人の少年に、知識と、あらゆる文学を悟る力と知恵を与えられた。ダニエルは、すべての幻と夢とを解くことができた。
  • 1:18 彼らを召し入れるために王が命じておいた日数の終わりになって、宦官の長は彼らをネブカデネザルの前に連れて来た。
  • 1:19 王が彼らと話してみると、みなのうちでだれもダニエル、ハナヌヤ、ミシャエル、アザルヤに並ぶ者はなかった。そこで彼らは王に仕えることになった。
  • 1:20 王が彼らに尋ねてみると、知恵と悟りのあらゆる面で、彼らは国中のどんな呪法師、呪文師よりも十倍もまさっているということがわかった。
  • 1:21 ダニエルはクロス王の元年までそこにいた。