「いのちを掛けて誓う。」ヨシュア2章11~21節

姦淫不倫など性的な罪を聖書は指摘しますが、神は虐げられ差別された女性を決して排除していません。現代でも、性的な虐待や犯罪にあった方々を見下げる人がいますが、神の裁きと判断は公正であり、慰めに満ちたものであることを理解して、人々に対応することが大事です。前にお話ししたタマルも、そのまま状況に安住して過ごせば、呪われた女、不幸な女として人生を終わるところでしたが、彼女は「このままではいけない。」と思い、神の慈しみを信じて行動を起こしたのです。それは、常軌を失した行動でしたが、神は虐げられて生きた女性をないがしろにはしなかったのです。

二人の斥候は「ラハブという名の遊女の家に」(ヨシュア2・1)に泊まるのですが、そこは当時の社会では当然ある宿でした。イスラエル人の襲撃を恐れる人々は、すぐにそれらしき二人連れを怪しんでエリコの王に告げます。「ところが、彼女はそのふたりをかくまった」(2・4)。かくまわなければ、彼らは殺されていたでしょう。屋上の亜麻の茎の中に隠したのですが、門は締り、捜索は続けられるので、逃がしたことがばれたらラハブも殺されます。彼女は命がけで彼らを救ったのです。

ラハブは、「主がこの地をあなたがたに与えておられること、・・・、私はよく知っています。」(9)と告げます。エリコの人々は、イスラエルの進撃に「心が萎えて、だれもが気力を失いました。」(11)。しかし、ラハブは、二人の斥候がイスラエル人であることに気が付いた途端に、彼らに自分たち家族の救いを掛けようと決心したのです。「どうか、私があなたがたに真実を尽くしたように、あなたがたもまた私の父の家に真実を尽くすと、今、主にかけて私に誓ってください。そして、私に確かな証拠を下さい。私の父、母、兄弟、姉妹、また、すべて彼らに属する者を生かし、私たちのいのちを死から救い出してください。」(12.13)。大変な勇気と決断力、そして根性です。俗悪なカナン人の中にあって誠実に生き真実を求めていたのでしょう。

祈祷会でパウロが「あなたがたは聞くには聞くが、決して悟ることはない。この民の心は鈍くなり、耳は遠くなり、目は閉じているからである。」(使徒28・26.27)と語ったように、聞いて見ても行動に移さない人々は滅んでいくのです。信仰は、神に対して真っ直ぐに語ること、その願いを行動に移すことが必要です。「信仰がなくては、神に喜ばれることはできません。神に近づく者は、神がおられることと、神を求める者には報いてくださる方であることとを、信じなければならないのです。」(へブル11・6)。「 信仰によって、遊女ラハブは、偵察に来た人たちを穏やかに受け入れたので、不従順な人たちといっしょに滅びることを免れました。」(へブル11・31)

この二人の斥候は、ラハブの必死な願いに応え、「私たちはあなたがたに自分のいのちをかけて誓う。・・・あなたに誠意と真実を尽くそう。」(ヨシュア2・14)。ラハブは、夜のうちに城壁に建て込まれた家の窓から彼らを綱で吊り降ろし、逆の山の方に逃げて3日間身を隠すことを教えます。この二人が逃げおおせたのは、ラハブの協力と知恵が無ければ無理でした。

この二人は、ラハブの願いの通りに一族全員を家に集めておき、窓に赤いひもを結びつけることを要求します。そして、このことを一族の人は守り、秘密にし、家に集まっていることが必要となります。まだ、だれか他の人に伝えたら、「あなたへの誓いから私たちは解かれます。」(2・20)となります。

この後、契約の箱に続いて、総勢300万人くらいの人々が、神に依って堰き止められ乾いたヨルダン川を渡ります。総勢がエリコの城壁の周りを6日間一回ずつ回り、7日目には7回回ります。そして全員が「ときの声をあげると、城壁は崩れ落ちた。」(6・20)。ヨシュアは、斥候とラハブの誓いを守り、「遊女ラハブとその父の家族と彼女に属するすべての者とは、ヨシュアが生かしておいたので、ラハブはイスラエルの中に住んだ。今日もそうである。これは、ヨシュアがエリコを偵察させるために遣わした使者たちを、ラハブがかくまったからである。」(6・25)。

そして、斥候の一人とラハブはこれを契機に結婚をするのです。彼は、ラハブが遊女であったということよりも、その信仰と人間性を大事にし、愛したのです。それだけでなく、「サルマがラハブによってボアズを生み、ボアズがルツによってオベデを生み、オベデがエッサイを生み、エッサイがダビデ王を生んだ。」(マタイ1・5.6)という大変な栄誉をもたらすのです。そして、母親がそのような異邦人で恵まれない環境の中で信仰を選び生き抜いたことを知っているボアズによって、異邦モアブ人の娘ルツが信仰と人間性を認められて結婚するのです。建前や家柄を気にする人々には信仰が理解できないものです。

ここで注意すべきは、ラハブの言葉に応答しなかった一族の人は、滅ぼされたということです。夫のいない遊女であるラハブを軽んじたり、交流を持たなかったり、周りの目を気にして行動しなかったり、城壁の崩壊やイスラエルの攻撃におびえて逃げ出した人は助からなかったのです。気になることは、ラインなどで連絡してください、と伝えても応じない人がいるということです。大丈夫だから応じない、と考える人は、大丈夫でなく応じられない時に、助けられることはない、と考えていないのです。緊急の時に、連絡手段を持っていない人を助けることはできないのです。

ヨシュア2章11~21節

  • 2:11 私たちは、それを聞いたとき、あなたがたのために、心がしなえて、もうだれにも、勇気がなくなってしまいました。あなたがたの神、【主】は、上は天、下は地において神であられるからです。
  • 2:12 どうか、私があなたがたに真実を尽くしたように、あなたがたもまた私の父の家に真実を尽くすと、今、【主】にかけて私に誓ってください。そして、私に確かな証拠を下さい。
  • 2:13 私の父、母、兄弟、姉妹、また、すべて彼らに属する者を生かし、私たちのいのちを死から救い出してください。」
  • 2:14 その人たちは、彼女に言った。「あなたがたが、私たちのこのことをしゃべらなければ、私たちはいのちにかけて誓おう。【主】が私たちにこの地を与えてくださるとき、私たちはあなたに真実と誠実を尽くそう。」
  • 2:15 そこで、ラハブは綱で彼らを窓からつり降ろした。彼女の家は城壁の中に建て込まれていて、彼女はその城壁の中に住んでいたからである。
  • 2:18 私たちが、この地に入って来たなら、あなたは、私たちをつり降ろした窓に、この赤いひもを結びつけておかなければならない。また、あなたの父と母、兄弟、また、あなたの父の家族を全部、あなたの家に集めておかなければならない。
  • 2:19 あなたの家の戸口から外へ出る者があれば、その血はその者自身のこうべに帰する。私たちは誓いから解かれる。しかし、あなたといっしょに家の中にいる者に手をかけるなら、その血は私たちのこうべに帰する。
  • 2:20 だが、もしあなたが私たちのこのことをしゃべるなら、あなたが私たちに誓わせたあなたの誓いから私たちは解かれる。」
  • 2:21 ラハブは言った。「おことばどおりにいたしましょう。」こうして、彼女は彼らを送り出したので、彼らは去った。そして彼女は窓に赤いひもを結んだ。