「この時の為かもしれない。」 エステル記4章7~16節 

ペルシャ帝国のクセルクセス王の時代の治世第3年とは、紀元前484年頃のことでしょう。クロス王の命令による神殿建設は紀元前516年に完成していますが、帰還したユダヤ人は少なく、多くはペルシャ帝国内に住んでいました。

180日にも及ぶ大宴会で王は、王妃ワシュティの美しさに驚かせようと呼び寄せたけれども、王妃は拒み、王は怒って退位させることにしました。そこで、代わりの王妃を選ぶために、美しい乙女を国中から集めました。

そこには、実よりもなく叔父のモルデカイに育てられたユダヤ人の女性エステルがいたのです。「エステルは、自分の民族も、自分の生まれも明かさなかった。」(2・10)。ユダヤ人であることによる差別と迫害があったからモルデカイが指導したのです。一年間の準備の期間をおいて整えられたエステルは、王の所に行くのですが、「王の宦官ハガイの勧めた物の他は、何一つ求めなかった。こうしてエステルは、彼女を見るすべての者から好意を受けていた。」(15)。そして、エステルは王妃となりました。

この後、アガグ人ハマンが昇進していました。ハマンの入城の時には、皆が膝を屈めてひれ伏すのに、ユダヤ人モルデカイだけは、膝も屈めず、ひれ伏そうともしなかったのです。高慢なハマンは怒り、「王国中のすべてのユダヤ人、すなわちモルデカイの民族を根絶やしにしようとした。」(3・6)のです。

王も浅はかですから、それを許し、「第一の月の十三日に」(12)、書簡が全ての州に送られ、「第十二の月、すなわちアダルの月の十三日の一日のうちに、若い者も年寄りも、子どもも女も、すべてのユダヤ人を根絶やしにし、殺害し、滅ぼし、彼らの家財をかすめ奪え」(13)と伝えられました。モルデカイは、それを知って「衣を引き裂き、粗布をまとい、灰をかぶり、大声でわめき叫びながら都の真中に出て行った。」(4・1)。「王の命令とその法令が届いたどの州においても、ユダヤ人の間には大きな悲しみがあり、断食と鳴き声と嘆きが起こり、多くの人たちは粗布をまとって灰の上に座った。」(3)。

モルデカイは、王宮にいるエステルに、「王のところに行って、自分の民族のために王からの憐れみを乞い求めるように」(8)命じたのでした。エステルは、勝手に「王のところに行く者は誰でも死刑に処せられる」ことを伝えますが、モルデカイに怒られます。「もし、あなたがこのようなときに沈黙を守るなら、別のところから助けと救いがユダヤ人のために起こるだろう。しかし、あなたも、あなたの父の家も滅びるだろう。あなたがこの王国に来たのは、もしかすると、このような時のためかもしれない。」(14)。エステルは、覚悟を決め、「行って、スサにいるユダヤ人をみな集め、私のために断食してください。三日三晩、食べたり飲んだりしないようにしてください。私も私の侍女たちも、同じように断食します。そのようにしたうえで、法令に背くことですが、私は王のところへ参ります。私は、死ななければならないのでしたら死にます。」

この後、大逆転してユダヤ人が勝利し、ハマンとその家族は滅びるのですが、それを記念して「毎年アダルの月の十四日と十五日を、自分たちの敵からの安息を得た日、悲しみが喜びに、喪が祝いの日に変わった月として、祝宴と喜びの日、互いにご馳走を贈り交わし、貧しい人々に贈り物をする日と定め」(9・21.22)、「これらの日をプリムと呼んだ。」(26)。

これらを通して、教えられることが幾つかあります。

落ち度としては、①せっかくのクロスの神殿建設の宣言に応じて帰国しなかったこと、⓶異邦の国での平穏な暮らしに固執したこと、です。良かった点としては、①ユダヤ人としての民族性を守ったこと、交流と結び付きを保ったこと、⓶苦難の時に必死に断食をして助けを求めたこと、です。

先週の井桁先生の証しを通して、私たちと同じような信仰の道を歩んできた後輩がいたことを嬉しく思いました。人生は生きるか死ぬか、と思っている人は少ないようです。実際は、信仰から落ちたら神の祝福を失い、破綻します。多くの苦難と試練がありましたが、それを乗り越えたからこそ、次の試練にも勝利できました。人を助けることもできました。「このような時のためかもしれない。」と感じるのは、過去の苦難があったからこそ、勝利できたからです。

人は皆、試練と苦難に遭うものですが、自らに甘い人は勝利できずに泣き言と言い訳を言うばかりです。「死ななければならないのでしたら死にます。」という覚悟が必要だと教えられます。

エステル記4章7~16節

  • 4:7 モルデカイは自分の身に起こったことをすべて彼に告げ、ハマンがユダヤ人を滅ぼすために王の宝物庫に納めると約束した、正確な金額も告げた。
  • 4:8 また、ユダヤ人を根絶やしにするためにスサで発布された法令の文書の写しを彼に渡した。それは、エステルに見せて事情を知らせ、そして彼女が王のところに行って、自分の民族のために王からのあわれみを乞い求めるように、彼女に命じるためであった。
  • 4:9 ハタクは帰って来て、モルデカイの伝言をエステルに告げた。
  • 4:10 エステルはハタクに命じて、モルデカイにこう伝えた。
  • 4:11 「王の家臣たちも王の諸州の民も、だれでも知っているように、召されないのに奥の中庭に入って王のところに行く者は、男でも女でも死刑に処せられるという法令があります。ただし、王がその人に金の笏を差し伸ばせば、その人は生きながらえます。私はこの三十日間、まだ王のところへ行くようにと召されていません。」
  • 4:12 彼がエステルのことばをモルデカイに告げると、
  • 4:13 モルデカイはエステルに返事を送って言った。「あなたは、すべてのユダヤ人から離れて王宮にいるので助かるだろう、と考えてはいけない。
  • 4:14 もし、あなたがこのようなときに沈黙を守るなら、別のところから助けと救いがユダヤ人のために起こるだろう。しかし、あなたも、あなたの父の家も滅びるだろう。あなたがこの王国に来たのは、もしかすると、このような時のためかもしれない。」
  • 4:15 エステルはモルデカイに返事を送って言った。
  • 4:16 「行って、スサにいるユダヤ人をみな集め、私のために断食してください。三日三晩、食べたり飲んだりしないようにしてください。私も私の侍女たちも、同じように断食します。そのようにしたうえで、法令に背くことですが、私は王のところへ参ります。私は、死ななければならないのでしたら死にます。」